お人好しな30匹のあまがえる。
働き者の彼らは、虫たちにたのまれて、花畑やきれいな庭を作る仕事をしています。
ある日、とのさまがえるのお店で、たらふくお酒を飲んだあまがえるたち。
お酒の代金を払えなくなった彼らは、とのさまがえるの家来にされてしまいます。
「あしたからみんな、おれの命令にしたがうんだぞ、いいか!」
さんざひどい仕事をさせられ、ぼろぼろになってしまうあまがえるたち。
そこに突然、「ひとにものを言いつける方法」と題した、国のあらたな決まり事が定まって──
働くことと、働かせること。
労働をテーマにした風刺的な作品であり、太陽や草木、ちいさな生き物などの自然に対する敬意と愛情に満ちた、いかにも宮沢賢治らしい作品「カイロ団長」。
悲しくなったり、あわてたりすると、すうと青色に透きとおってしまうあまがえるたちの体や、お日様の光で照らされる自然の様子などが、幻想的に語られています。
暗い色の体をしたカイロ団長が、いっぱいに描かれている表紙を見ると、いささか地味で沈んだ色合いの絵本に感じられてしまうかもしれません。
ところが、表紙から受ける印象は最初のページですっかりくつがえってしまいます。
日に透けたようにうっすらと朱の線でふちどらた、鮮やかな緑色のあまがえるたち。
にじむように繊細なタッチで描かれる、色とりどりの草花。
王様の命令を伝える、虹のような体と殻を持ったかたつむり。
そして最後のページがみどころ!
30匹のあまがえるたちがいろいろな草花に囲まれてゆかいに働く姿を描いた場面は、鮮やかな色彩がまぶしいほど。
今は使わない物の単位や古い言い回しがありますが、巻末にまとめてそれらの意味や、今の単位でどれくらいに相当するかが記載されています。
すんなりと読み進むには少し、むずかしいところもあるかもしれませんが、宮沢賢治の不思議な懐かしさのある繊細な言葉選びを、音読でいっしょに楽しんでみるのはいかがでしょうか。
(堀井拓馬 小説家)
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