おはなしが持つ力を大事に、絵本づくりをしていこうという出版社の思いでスタートした「おはなしえほん」シリーズ。
一冊目は、『ちいちゃんのかげおくり』や「車のいろは空のいろ」シリーズなどで子どもの心に生き生きと残る童話を書いてきた、あまんきみこさんの作です。
いきなり降り出した雨のなか、ともこが走ってうちに帰っていると、ふいに雨の降らないふしぎな空間に迷い込みました。
どこからか、お祭りのかけ声のような、大勢のひとの声が聞こえてきます。
「きつねみち」
「どっこい!」
「てんのみち」
「やんこら!」
「がんばれ」
「それな」
見ると、ほんとうのきつねが、青い大きなすべりだいを御神輿のように運んでいるのでした。
ともこは、ちいさなきつねに「そこのきょうだい!」「ここをもちなよ」と言われて思わずいっしょにすべりだいを運びます。
すると、緑の林を通り過ぎた、その先に見えてきたのは……?
松成真理子さんの水分をたっぷりふくんだ筆で描いたようなやわらかな色の絵が、あまんきみこさんのお話をひきたてます。
雨と、きつねと、青いすべりだい。そして緑の林と、きつねしょうがっこう。
ともこが迷い込んだ「きつねみち」にドキドキして、人間である正体がばれてしまってきつねはなんと言うかとドキドキして、子どもはおはなしにじっと耳をかたむけるにちがいありません。
いつのまにか、うすべに色の西の空。
夕暮れ前の「時間のすきま」が、みずみずしく描かれたおはなしです。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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