雪がのこる、春まだ浅い野山。
大木の根元の穴から、くまの親子が顔をのぞかせています。
「はるがきて めがさめて
くまさん ぼんやり かんがえた
さいているのは たんぽぽだが
ええと ぼくは だれだっけ」
104歳まで詩を作りつづけ亡くなられた詩人、まどみちおさんの詩に、ましませつこさんが心をこめて絵を描いた絵本です。
いのちが生き生きと息をふきかえしていく春。
冬眠からめざめて、巣穴からはい出したこぐまの、ちょっととぼけた「ええと ぼくは だれだっけ」「だれだっけ」のくりかえしで、しだいに胸のなかに何かがめざめていきます。
「そうだ ぼくは くまだった」
自分が自分であるという素朴なよろこび!
まどみちおさんの口ずさみたくなるような詩が、心にふくらんでいく思いを受け止めてくれます。
ことばがやさしく胸にしみこみ、思わずにっこり笑顔になってしまう愛らしい絵本です。
『ママだいすき』『ねえあそぼ』など、まどみちおさんと絵本を作ってこられたましませつこさん。
ましまさんご自身も大好きな詩「くまさん」を絵本にするにあたり、場面展開や子ぐまのしぐさなどひたすら考えて制作されたそうです。そして、もこもこの子ぐまの毛並みを表現するため、着物の型染め用の小さい刷毛で描かれたそうです。
山形の雪国育ちであるましませつこさんだからこそ、肌寒い早春の野山と、春がきたよろこびを体で知る子ぐまを、ほのぼのとした味わいで描けたのかもしれません。
本をひらくひととき、子ぐまになったつもりで楽しんでくださいね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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