ある日、バス停でバスを待っていたのは、なんとクロヒョウ。どうにもかわったクロヒョウで、「のりものにのってみたい」と思っていたのです。
「のせてくださいな」
運転手さんはびっくりして、ことわります。それでもお行儀よくしていることを条件に、クロヒョウはバスに乗せてもらいます。バスが走り出すと、窓から入る風がクロヒョウの鼻をくすぐります。むずむず、むずむず……。
「ぐっおおおおん」
大きなくしゃみが出て、クロヒョウはバスを降ろされてしまいました。なにしろクロヒョウですからね。くしゃみが出てしまっただけでも、大さわぎなのです。さらにクロヒョウは、タクシーやバイク、次々に乗せてもらうのですが……。
ぴかぴかの黒い毛並みを持つ、りっぱな体をしたクロヒョウ。そんなクロヒョウが街中に登場したら、誰だって驚いてしまいますよね。ところがこのクロヒョウ、なんだかとぼけた雰囲気で、人間の世界にとけこんでしまうのだから不思議です。大人しくさえしていれば、みんなのりものにだって乗せてくれます。でも、やっぱりクロヒョウはクロヒョウ。大人しくしているのが、大変なんですよね。くたびれて、ごろんと横になっていたクロヒョウに、最後に声をかけてくれたのは?
迫力満点、けれどちっとも怖くないクロヒョウ。その表情や行動がおかしくて笑っているうちに、いつしか哀愁すら感じ、気がつけばクロヒョウを応援してしまいます。子どもから大人まで、誰もがその魅力にすっかり夢中になってしまうのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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