お江戸を舞台にした、むしのものがたり。
お寺の和尚さんにおつかいを頼まれたのは、オンブバッタのおくさん。
「とめさん、今夜はお月見じゃ。おいしいだんごを作ったから、こんじきどうのタマムシ和尚に持っていっておくれ。」
だんごのつつみを持って、早速出発しようとするとめさんの背中に飛びのってきたのは・・・だんなのぺたりどん!
「ひとときも離れたくないんだ」
背中から降りようとしないぺたりどん。だだをこねて泣き叫ぶ姿はなかなかの場面なのです。
(これは困った旦那さんだ)ちょっと苦笑いをしながら、読み進めていくと、このとめさんもなかなかのお調子者らしい。行きに通る広場ではお月見をしようと大勢の人が集まって、まるでお祭りのよう。とめさんはお相撲を応援したり、コオロギどんののど自慢に黄色い声援を送ったり、はりきって盆踊りに参加しちゃったり。更には、カブトムシのおくさんのお茶に呼ばれてしまう始末。おつかいは大丈夫なの?すると案の定・・・。
その後の展開は予想外。前言撤回、だんなのぺたりどんの活躍ぶり、控えめな愛情表現にうらやましくなってしまったことだけお伝えしておきます。
「お江戸むしものがたり」というだけあって、全編登場人物は虫、虫、虫。身近にいる昆虫ばかりです。本物に忠実な形態と、着物の組み合わせがとにかく可笑しいのです。ちょんまげも結ってます。
それにしても昆虫の種類があまりにも豊富で、特徴を生かしきった設定には驚かされます。
作者の得田之久さんの名前を聞けばピンとくる方も?そう、科学絵本から創作絵本まで昆虫をテーマにした絵本を沢山描かれている方なのです。絵を描かれているのは、やましたこうへいさん。お二人のコンビの作品は、発売されたばかりの『ばななせんせい』に引き続き、大らかな雰囲気とユーモラスなキャラクターが魅力的です。
見返しには昆虫それぞれをテーマにした家紋が描かれています。これがすごくかっこいい!おふたりで考えられたのでしょうか・・・かなり楽しまれているのが伝わってきますよね。
また続きが読めたら嬉しい、そう思ってしまう1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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