絵を描くのが大好きな羊のルーシーは、図工の時間になるとみんなの人気者。
「ほんとうにじょうずだね、ルーシー」
「ルーシー、うさぎ かいて」
だけど、子牛のトミーだけは違いました。
トミーは、そんなルーシーにいじわるをたくさんしてしまうのです。上手にできた工作を足でふみつけ、「だれにもいうなよ!」と怒鳴り、ルーシーの本をやぶったり、描いた絵をくちゃくちゃにして鉛筆を折ったり。
悲しくてもつらくてもお母さんや先生に本当のことを言えなかったルーシー。
いじわるされたルーシーがどんな気持ちでいたかわからなかったトミー。
絵本は、ルーシーの目線から二人の気持ちの変化を丁寧に優しく追っていきます。
自分を中心にまわっていた小さな世界から、学校、社会という大きな世界へ足を踏み入れた時、それまで感じることのなかったいろいろな気持ちが心に生まれてとまどうこともたくさんあるかもしれません。クレア・アレクサンダーさんの描く絵本では、子ども達はそれぞれ相手の気持ちを思いやることに気づきます。そこにはちょっとした勇気とたくさんの希望がいつもあふれているのです。
絵本作家、肖像画家でもある彼女は、一方で絵本作りのワークショップや学校の子ども達を積極的に訪問する現役教師の資格をもつ先生でもあります。そんな彼女が初めて出版した絵本作品。子ども達の気持ちに寄り添った意欲作は、英国でもとても高い評価をされたくさんの感謝のレビューが届いているのだそうです。
ちなみに、みんなが「カラス」だと思い込んでいるルーシーの作った「クロウタドリ」。日本ではあまり耳にしない鳥の名前ですが、黒い体に黄色のくちばしで、英国では"Blackbird"と呼ばれ、ビートルズの歌にもなっているお馴染みの鳥なんですって。
動物たちの登場人物を通して体現する身近な学校での出来事。子どもたちは、大人が言葉で語らずとも、きっとルーシーやトミーの気持ちを感じとってくれることでしょう。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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