宮沢賢治の絵本 銀河鉄道の夜
- 作:
- 宮沢 賢治
- 絵:
- 金井 一郎
- 出版社:
- 三起商行(ミキハウス)
絵本紹介
2025.07.08
約40日間の長い休み「夏休み」。今日はどこへ出かけよう? 何をしよう? プール? 海? キャンプ? 家でずっとゲーム三昧もいいし、虫取りしに外に出るのも良い。かき氷も食べたいし、アイスもスイカもやめられない。そして、暗くなったらやっぱり花火! 朝起きてから夜寝るまで子どもたちの好奇心は止まりません。
でも、我々大人はそんなに悠長に構えることはできず、何かあるごとに声に出してしまう「宿題はやったの?」の一言。夏休みの宿題は毎日少しずつ進めてほしい、最終日に泣きながら宿題と向き合う我が子を見たくないが故の予防線とはいえ、何とも味気ない一言です。
特に一朝一夕で行かない宿題が「読書感想文」。まず本を選ぶところからはじまり、一冊読み切り、さらに原稿用紙に感想を書く。どんなに短時間で終わらそうと思っても2、3日はかかる夏休みの宿題の大物です。その大物に立ち向かうために親ができる最初のことが「選書」。子どもの好みや特性を知っている親だからこそ、我が子が一冊読み切ることのできる作品を選んであげられるのではないでしょうか。
さあ、ここで紹介している読書感想文におすすめの作品8冊のうち、お子さんが読みたくなる作品を探し出してくださいね。
みどころ
おまつりの夜、少年ジョバンニがひとり町のはずれでどこからともなく聞いたのは、汽車の音と「銀河ステーション」というふしぎな声。気がつくと目の前には親友カムパネルラが座っており、ふたりは一緒に小さなその鉄道にのっていたのです。
銀河をかけぬけていくその列車、ふたりの少年はどこへ向かっているのでしょう。幻想的な景色や出来事を目にしながら、ジョバンニは幸せについて、生きる事について考えるのです。やがて、そこらが一ぺんにまっくらになったかと思うと・・・。
宮沢賢治の作品といえば、誰もが最初に思い浮かべるであろう名作「銀河鉄道の夜」。
たくさんの人が読み、たくさんのイメージが生まれ続けているこの童話ですが、また新たな世界を見せてくれる傑作絵本が誕生しました。
独特の世界観で描かれたこの童話に小学生の時に出会い、以来十代の終わり頃から50年の時をかけて「銀河鉄道の夜」のビジュアル化を目指して制作を続けられたというのは金井一郎さん。
絵本を開くと広がっているのは、見た事のないような表現。その不思議な世界は幻想的であり、銀河を想像させてくれます。まさに現実と空想、生と死のはざまを表しているかのようです。
「翳り絵」と呼ぶその手法は穴をあけた黒いラシャ紙から浮かびあがる光の粒の集積によって表現されたもの。
宮沢賢治のこの物語が、こんなに奥深く美しい世界を生み出してしまうのだから、やはり驚いてしまいます。初めて出会う子どもたちも、何度も読んできた大人も、じっくりと味わい読み込んでもらいたい1冊です。
この書籍を作った人
1896年岩手県花巻市に生まれる。盛岡高等農林学校農芸化学科卒業。十代の頃から短歌を書き始め、その後、農業研究家、農村指導者として活動しつつ文芸の道を志ざし、詩・童話へとその領域を広げながら創作を続けた。生前に刊行された詩集に『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』がある。彼の作品の殆どは没後に高く評価され多数の作品が刊行された。また、何度も全集が刊行された。1933年に37歳で病没。主な作品に『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『ポラーノの広場』『注文の多い料理店』『どんぐりと山猫』『よだかの星』『雪渡り』『やまなし』『セロひきのゴーシュ』他多数。
みどころ
男の子はみんなモヒカン、女の子もしっちゃかめっちゃかに結わえた髪で、だれもが同じ形の家に住んでる、ヘンテコな町。
そこに住むウエズレーには、友だちがいない。
だって、みんな同じかっこうをしているのに、ウエズレーだけはそうしない。
ピザもコーラもサッカーも、みんなは大好きなのに、ウエズレーは大嫌い。
でも大丈夫、ウエズレーには得意なこともある。
いじめっ子から逃げるのと、それにちょっとした発明。
そんなウエズレーが、その年の夏休みに自由研究の宿題として作ろうと思い立ったのは――
自分だけの、文明!?
ここはウエズレーの、ウエズレーによる、ウエズレーのための国、「ウエズランディア」!
その新たな文明の歴史は、風によって運ばれた、ある不思議な植物の種からはじまる――
秘密基地やロビンソン・クルーソー。
そんな言葉に胸躍る、すべての人に届けたい作品です!
「自分だけの文明を作る」という壮大なテーマ。
そして、新たな文明の歴史をつむぐ、ウエズレーの発明と工夫の数々。
舞台は自宅の庭だけなのに、無人島での生死を賭けた大冒険にもまったく劣らないワクワクが、この絵本には詰まっています。
誰も持っていない、軽くて柔らかな服。
自分で考えた新しい遊び。
言葉や時間の単位、歴史まで。
ウエズランディアでは、すべてのものをウエズレーが作るのです。
「文明を作る」という奇抜なテーマについて、ただ秘密基地を作る、というだけのことにとどまらず、農耕からはじまり独自の文化を生み出すに至るまでを描いている点がみどころ。
その描写のていねいさが説得力を生み出していて、「なんだか自分でも工夫次第では実現できるんじゃないか?」なんて思わせてくれる楽しさがあります。
さて、ウエズレーは、自分だけの王国で存分に夏を満喫します。
暑い夜には、夜空に新しい星座を描きながらハンモックで眠り、自動で果実を絞る装置で、一日ジュースを飲み放題。
「ウエズランディア」、そこは、究極の自由だけが支配する国――
この書籍を作った人
メイン州在住のイラストレーター。自作の絵本のほか、ミシェル・ヌードセン作『としょかんライオン』(岩崎書店)、キャスリン・ラスキー作『大森林の少年』、ポール・フライシュマン作『ウエズレーの国』(ともにあすなろ書房)など、数多くの絵本の絵を描く。
この書籍を作った人
1959年、北海道生まれ。国際基督教大学卒業後、児童書編集者を経て翻訳家に。北海道札幌市在住。訳書に、『ウエズレーの国』、『雪の結晶ノート』、「見習い幻獣学者ナセニエル・フラッドの冒険」シリーズ、『「死」の百科事典』(すべて、あすなろ書房)、「知識絵本 のはなし」シリーズ、「こちら動物のお医者さん」シリーズ(ともに、ほるぷ出版)、『あたまにつまった石ころが』(光村教育図書)、『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』(岩波書店)、『ゴハおじさんのゆかいなお話 エジプトの民話』(徳間書店)、『ピーティ』(鈴木出版)などがある。
出版社からの内容紹介
イギリスの小学生たちに大人気!
ネズミのペドロは、ワクワクする
「冒険」を夢見て、旅に出ました。
旅のとちゅうで、
チュウチュウ諸島の伝説のヒーロー
〈チュウチュウ冒険団〉に出会います。
ペドロは、冒険団のネズミたちに、
仲間に入れてほしいとたのみますが、
キャプテンに断られてしまいました。
ところが、つぎの朝、
冒険団の基地の非常ベルが鳴りひびき、
「きょうぼうなカワウソが目撃された」
という知らせが入り…?
ゆうかんなネズミたちの
ドキドキする冒険を描いた、
英国で人気の楽しい読みもの。
カラー挿絵がたっぷり入っているので、
ひとりでの読書をどんどん楽しみたい
お子さんにおすすめです。
ロンドンの児童書専門店が主宰する
アリゲーターズ・マウス賞受賞作品。
みどころ
「四年生の夏休みを最高の夏休みにしようよ」
待ちにまった夏休み。山あいの村、天神集落で同じ小学校に通う山ちゃん、シューちゃん、かっちゃん、ぼく(あきら)の仲よし四人組は、早速かっちゃんの部屋に集まります。四年生の夏休みを最高の夏休みにしようと言ったのはかっちゃん。そうして四人の冒険の夏が始まります。
その冒険のひとつが天神橋からの川へのとびこみ。天神集落の子どもたちにとって、川へのとびこみは、ちょっと大人へと成長できた気がするような大切な儀式。そのとびこみにかっちゃんが今年の夏、挑戦したいと言います。けれどもぼくたちの気持ちは複雑です。それは、かっちゃんが筋ジストロフィーという病気で、けがや病気をすると、進行が早まってしまうと言われているから。けれどもかっちゃんのどうしてもの願いを聞いてあげたくて、ぼくたちは準備を万端にして見守るのですが……。
慎重なぼく。やんちゃだけれど頼もしい山ちゃん。マイペースなシューちゃん。性格はみんな全然違うけれど、それぞれの方法で、やりたいことをあきらめないかっちゃんの気持ちを汲み取り、全力で手助けしながら一緒に楽しみます。どんな冒険も四人で一緒に挑戦することに意味があるのです。みんなでなんとか頭をひねらせ、できる限りの準備をして一緒に冒険にのぞんでいく友情がまぶしく光ります。
一方、体に病気を抱えていながらも、かっちゃんはいつも明るくて前向きです。将来落語家になりたいという夢を持っていて、お気に入りは「じゅげむ」。この「じゅげむ」が、冒険に向けて不安になった時や、いい方法が浮かばない時にみんなを勇気づける活力になっているよう。
お話を書かれたのは、これまで数々の児童文学賞を受賞され、心に深く残る絵本や児童文学をたくさん生み出されてきた最上一平さん。その骨太なお話に、マメイケダさんの勢いのある挿絵がとてもマッチしています。表紙に描かれている、緑いっぱいの山に囲まれた集落の上に広がる真っ青な空。むっと湿度を含んだ夏の空気と木々の匂いがしてきませんか。
第70回読書感想文コンクール課題図書の小学校中学年の部にも選定されている本書。夏をめいっぱい冒険したい三年生、四年生に。さらに少年たちの友情と冒険といのちを謳歌する日々のこのきらめきを、大人の方にもぜひ感じてほしいです。
この書籍を作った人
1957年、山形県生まれ。児童文学作家。『銀のうさぎ』(高田三郎・絵、新日本出版社)で日本児童文学者協会新人賞、『ぬくい山のきつね』(宮本忠夫・絵、新日本出版社)で日本児童文学者協会賞・新美南吉児童文学賞、絵本『たぬきの花よめ道中』(町田尚子・絵、岩崎書店)で日本絵本賞受賞、同じく絵本『じぶんの木』(松成真理子・絵、岩崎書店)でひろすけ童話賞、『じゅげむの夏』(マメイケダ・絵、佼成出版社)で産経児童出版文化賞JR賞・小学館児童出版文化賞を受賞など、受賞多数。そのほかにも読み物、絵本ともに作品多数。
この書籍を作った人
1992年生まれ。島根県生まれ。画家、イラストレーター。食べたごはんをよく描いている。絵本の作品に『おなかがへった』(WAVE出版)、『えきべんふうけい』(あかね書房)など。展覧会での発表や書籍・雑誌の装画など、幅広く活躍中。
この書籍を作った人
60年間に及ぶキャリアで、300冊以上の本にイラストを描き、ロアルド・ダール、マイケル・ローゼン、ラッセル・ホ−バン、ジョン・ヨーマンなどの作家とともに仕事をする。ロンドンに住み、2013年には、イラストによる貢献に対してナイトの称号を授与されている。1980年ケイト・グリーナウェイ賞、1996年ボローニャ・ラガッツィ賞(児童書フィクション部門)受賞。
出版社からの内容紹介
1945年8月9日。一発の原子爆弾が長崎に落とされた日、12歳の父は中学校での試験を終え、疎開先の隣町へ帰る列車に乗れたことで一命をとりとめた。爆心地から800mの場所にあった中学校は全壊し、同級生の3分の1が帰らぬ人となった。
原爆から逃れ、平穏な一生を送ったと思っていた父は、しかし被爆者だった。父の死後、見つかった父の被爆者手帳には、ぼくの知らなかった「あの日」とそこからはじまった父の葛藤の日々が残されていた。
被爆地で生き抜いてきた父の思いと、隠し続けられたぼくの名前のひみつ。
やがて解き明かされる真実にたどり着いたとき、ぼくは……。
長い時を経て、原爆被爆者の言葉にできなかった思いが、今、静かに胸に迫る。
この書籍を作った人
千葉県生まれ。子供のころから、園芸好きの祖父と共に植物に親しむ。造園会社の仕事などを経てフリーに。現在イラストレーター、造園家として活躍中。著書に『夏のクリスマスローズ』(アートン新社)、『にわのともだ ち』(偕成社)など。
みどころ
学校からの帰り道に見つけた、しましまのねこ。のらねこなのかな? それともすてねこ? ぼくが近づいてもねこは逃げない。何度もなでさせてくれる。「つれてかえりたいな。ぼくのねこになってくれたらいいな。」そう思っていると雨が降ってきて、ぼくは家にねこをつれて帰った。
うちで飼いたいとお母さんに言うと、「すてねこなら、かってもいいけど」と言っておかあさんは近所にねこに心当たりがないか聞きに言った。でも知っている人はだれもいなかった。ぼくはねこに「ポー」という名前をつけて、かわいがろうと思った。
ぼくのクラスに森あつしくんという転校生がやって来た。席が近くなって、ぼくは森くんを気にかけて、たわいもないことを話したり、笑い合ったりして仲良くなった。けれども帰り道に森くんが、引っ越してきた日の夜に飼っていたねこがいなくなってしまったとつらそうな顔をして言った。ぼくはそれがどんなねこなのか、それ以上聞きたくなかった。
ひもにじゃれて楽しそうに遊ぶ「ポー」、ぐるぐるとのどを鳴らす「ポー」、毛がとってもすべすべしている「ポー」。こんなに可愛いのに、森くんがさがしているねこじゃないよね。「ポー」が森くんのねこでないことを願いながらも、頭をかけめぐる、もしかしたらの思い。森くんから逃げれば逃げるほど、ぼくの気持ちは追い詰められていきます。一度気持ちが通ってしまった大切な存在と離れなければいけないかもしれない……と思うことはなんてつらいことなのでしょう。そんなぼくの心の機微を岩瀬成子さんが丁寧にしっかりと描き出します。
松成真理子さんが描く、毛並みがすべすべで柔らかそうな「ポー」の姿がとっても愛らしく、ぼくをまっすぐに見つめる「ポー」の目も印象的です。そのまっすぐな目にぼくは何を思ったのでしょうか。
小学1、2年生からおすすめの、さまざまな感情と出会える幼年童話です。
この書籍を作った人
1950年、山口県生まれ。1977年、『朝はだんだん見えてくる』(理論社)でデビュー。同作品で日本児童文学者協会新人賞受賞。1992年、『「うそじゃないよ」と谷川くんはいった』(PHP研究所)で小学館文学賞、産経児童出版文化賞受賞。1995年、『ステゴザウルス』(マガジンハウス)、『迷い鳥とぶ』(理論社)の2作により、路傍の石文学賞受賞。2008年『そのぬくもりはきえない』(偕成社)で日本児童文学者協会賞受賞。2014年、『あたらしい子がきて』(岩崎書店)で野間児童文芸賞、JBBY賞、IBBYオナーリスト賞受賞。2015年、『きみは知らないほうがいい』(文研出版)で産経児童出版文化賞大賞受賞。2021年、『もうひとつの曲がり角』(講談社)で坪田譲治文学賞受賞。そのほかの作品に、『ともだちって だれのこと?』(佼成出版社)、『なみだひっこんでろ』(岩崎書店)、『ちょっとおんぶ』(講談社)、『ピース・ヴィレッジ』(偕成社)、『だれにもいえない』(毎日新聞社 )、『まつりちゃん』(理論社)などがある。
この書籍を作った人
1959年生まれ。大阪府出身。イラストレーター、絵本作家。『まいごのどんぐり』(童心社)で児童文芸新人賞受賞。紙芝居『うぐいすのホー』(童心社)で第43回五山賞奨励賞受賞。『じいじのさくら山』(白泉社)などの作品の評価も高く、読者、専門家の注目を集めている。ほかに『こいぬのこん』(学研)、『くまとクマ』(童心社)、『ぼくのくつ』(ひさかたチャイルド)などの作品がある。