はなちゃんがかよう保育園では、毎月、避難訓練があります。
園長先生の放送が流れたら、みんなでテーブルの下にかくれてから避難場所へ急ぎます。
でもすみれ組のはなちゃんは、ちょっとのんびりやさん。ニコニコちょうちょやお花を見て、おそ〜い。
「はなちゃん、のんびりしてるとつなみにさらわれるぞ! がおがおがお〜んって!」
先生にそういわれたはなちゃんは、そんなのやだ!と、それから「はやあるき」の練習です。
どんなときも、すっすっ さっさっ すっすっ さっさっ すっすっ さっさっ。
ある日、ほんとうに大きな地震がきて……。
東日本大震災で、岩手県の北にある野田村保育所の園児90名、職員14名は、全員、津波を逃れました。
その奇跡的な避難の背景には、毎月の地道な訓練があったといわれます。
あの日の、「だれも泣かず、だれもぐずらず、それはそれはりっぱだったんですよ」と職員(じつは作者の義妹)から聞いた園児たちの姿……。
それが作者の宇部京子さんの心にはずっと残っていて、震災から4年近くの時を経て絵本になりました。
宇部京子さんは岩手県久慈市在住の詩人。語りかけるようなやわらかな言葉と、イラストレーター菅野博子さんの絵から、園児さんたちの非常時の緊張感やいつもの笑顔がまっすぐつたわってきます。
子どもたちがなぜがんばれたのか。あるいてあるいて、あるきとおすことができたのか。不思議でたまりません。
でもこの絵本を読むと、そのわけがわかる気がします。
はなちゃんのはやあるき。それはじぶんをじぶんでまもる、はやあるき。
ちいさな笑顔と必死さが、わたしたちの胸に力強くやさしく迫ってくる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
続きを読む