「よあけ」や「ゆき」の静かな景色とストーリーで人気のユリ・シェルヴィッツ。この本は何と彼のデビュー作。雰囲気が大分違って可愛らしいぞ・・・と思ったら、この本のできるいきさつが最後に書いてあり興味を惹かれます。 ポーランド生まれのシェルヴィッツは、ナチスの迫害を避ける為パリやイスラエルで子供時代を過ごし、24歳でニューヨークにやってきます。挿絵の仕事をしようと出版社を回りますが、ある出版社の人に「今は挿絵の仕事はないので自分で絵本をつくってみたら」と言われ、まだつたない英語で試行錯誤を重ねてできた絵本がこれ。 おとこのこの部屋にはなんでもあります。 じぶんだけのおひさま じぶんだけのおつきさま おもちゃのへいたい きしゃも・・・あれ、いちばんたいせつなあのこがいない!どこ? やっとみつけたともだちのくまさん。おとこのこはくまさんを王様、自分は騎士になりずーっとずーっと友達だと誓います。 友達のくまさんを敬い、一緒に約束する男の子の様子に、シェルヴィッツが絵本を創リ続けようという意志が感じることができます。そして、センスのある、でも細くてどこか頼りなげな絵と合わせて健気な、愛しい本になっています。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
男の子の部屋には、なんでもあります。山や谷、それに月だって! でもいちばん大切なのは…。シュルヴィッツのデビュー作、待望の初邦訳。
ファンタジーから夜の眠りに誘う、穏やかな作品です。原書タイトルは『The Moon in My Room』で「月」がメインなのですが、「くま」でも「月」でも安らかに眠りに誘うはたらきに変わりはありませんでした。
小さな男の子がお部屋にひとり。部屋の中には、なんでもあります。「じぶんだけの おひさまも、じぶんだけの おつきさまも、じぶんだけの おほしさまも、きや はなが そだつ おにわも、やまや たにも、 それに、ともだちも たくさん います。」――さらりと、でも構成は熟考されて描かれた繊細なラインが、ページごとに吹き抜ける風と射す光を伝えてくれるかのようです。友だちの中には大切なくまさんがいるのですが、くまさんの姿が見えません。くまさんは、どこに行ったのでしょう。
絵本に使用される色は、赤、緑、黒の3色のみ。でも、余白が生かされ着色がほんのり薄めなので、ふんわりやさしいベールにおおわれる印象を受けます。自然のめぐりとともに時間が過ぎた、幼い日の追憶がよみがりそうな画風です。
ひとつ気づいたことは、月にかけられた「はしご」の光景。エリック・カールの『パパ、お月さまとって!』(原書『Papa, Please Get the Moon for Me』1991年)と同じなのです。シュルヴィッツの初版が1963年なので、ここからインスピレーションを得たのかもしれないと一瞬どきっとしました。
娘は、作中の山や谷にがまくんとかえるくんが住んでいると言っていました。こういうつぶやき、あとどのくらい続くのでしょう。考えると、淋しくなったりします。彼女は原書ですでに読んだそうで、読む前にくまさんの居場所をこっそり教えてくれました。 (ムースさん 40代・ママ 男の子12歳、女の子6歳)
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