今から300年ほど前の江戸時代。となりの国の朝鮮から「通信使」と呼ばれる使節団がやってきます。役人たちをはじめ、画家、僧侶、医師、学者、舞踏家、芸人などからなる総勢500名あまりの使節団は、対馬から瀬戸内を海路で、大坂から淀までを川舟で、その後江戸までを陸路で進んでゆきました。
本書は、そんな使節団を目の当たりにした少年たちの、特別な一日を描いた物語です。
「お船がとおるぞぉ〜!」
大坂の港には、一目、異国の使節団を見ようと、たくさんの人が駆けつけました。
30年ぶりの来訪に感慨深げな人。わくわくお祭りのようにはしゃいでいる人。豊臣秀吉が朝鮮と戦争をしていた際、日本に連れてこられた人の子孫たちは、「自分のご先祖様の国の人を見たい」と切実な思いも抱いています。
淀川のほとりに住む少年たちは、向こう岸の世界も知りません。川は未知の世界につながっていて、いつかそこへ行ってみたいと思っています。
そんな少年たちの前を、特別にあつらえた船で、異国の使節団が通ります。ラッパの音、天女のような優雅な舞い、芸人たちの奇抜なだしもの。そして、沿道の人々から惜しみなくおくられる歓声と拍手。
いつも見慣れている川が、今日はきらきらと輝いて見える……。
人々の生活をささえると同時に、災害をもたらしながら、脈々と流れる雄大な川。日本と外国の関係も同じように、お互いにみのりをもたらしたり、ときにたたかったり憎しみあったり。良い時ばかりではなく、常に変化するものなのかもしれません。
しかし、ゆるやかな時間と川は、そういったすべてのことをのみこみ、包みこみ、ゆっくりと流れていく。
未知のものを初めて見つめる少年の瞳の輝き、そして、「礼儀も格式」も横において、ごく自然にまじわり、談笑し、心を通わせていく使節団と見物にきた人々の姿が、繊細でのびやかな絵で描かれます。
文化や絆をつなぐということは、えらい人が握手したり、宣言したりすることではなくて、人々が笑い、尊重しあい、お互いに興味を持つことなのかもしれない。生きるとは、こういうことなのかもしれない。たくさんの大切な視点とおおらかな気持ちに満ちた素敵な絵本です。
物語と絵に感動し、作者の想いがこもったあとがきを読んで、心揺さぶられます。読み返すたびに発見がある、そんな一冊です。
(光森優子 編集者・ライター)
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