降りつづく雪の中、ぽつんと落ちていたのは片方だけの暖かそうな手袋。最初に見つけたのは小さなねずみ。彼女は中にもぐり込み、言うのです。
「ここで くらすことに するわ」
確かに、ねずみが暮らすのにはいい大きさ。居心地も良さそうです。そこへやって来たのは、かえるさん。中に入りたいと言います。手袋の中にはねずみとかえるの二ひき。確かにこれも悪くない。ところが今度はうさぎがやってきて、言うのです。「ぼくも いれてよ」あっという間に三びきです。大丈夫かしら…。これで終わることなく、さらにやってきたのはきつねです。さらにさらに、おおかみも、いのししも、しまいには驚くほど大きいあの動物まで! いったい、そんなことって可能なの!?
ウクライナ民話から生まれた絵本『てぶくろ』は、日本でも1965年に内田莉莎子さんの翻訳で発売され、今でも変らず子どもたちに読み継がれている傑作です。
その魅力はいくつもあります。まずはなんといっても、少し不思議な展開です。最初はただの手袋だったはずなのに、「いれて」「どうぞ」の繰り返しにより、子どもたちの心にはドキドキが生まれてくるのです。「ほんとに入るのかな?」「ちょっと怖そうなきつねがやってきたけど、大丈夫?」「この後どうなるんだろう…」。新しい動物が登場するたびに心配になり、ページをめくればその様子に驚き、絵本と一緒にハラハラするのです。だけど、それこそがこのお話の醍醐味ですよね。
さらに、個性豊かな動物たちの表情も強く心に残ります。愛らしいだけでなく、それぞれの動物の持つユーモラスな部分や緊張感さえ漂う迫力の存在感までも描き出し、キャラクターを表わす印象的な衣装もお話の雰囲気を盛り立ててくれます。
そんな演出もあって絵本の世界に夢中になっている頃……物語はパチンと音がするようにふと終わるのです。残された子どもたちは余韻にひたりながら、きっと思わずこう言ってしまうのでしょうね。「もう一回!」
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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