動物園に朝が来て、少年はかばの親子に語りかけます。
「おきてくれ かばくん どうぶつえんは もう11じ
ねむいなら ねむいと いってくれ つまらないから おきてくれ」
小さなかめくんを連れた少年は、飼育係なのでしょうか。
そうして、かばくん達のゆったりとした一日が始まります。
50年以上も前に発売されたこの絵本が、今も子ども達の心を掴んで離さないのは、やっぱり「かばくん」が魅力的だから。ねぼすけのかばくん、水の中をゆったりと泳ぐかばくん、地上に姿を現せば驚く程大きな体をしているかばくん。そして、大きな大きな口を持つかばくん。大らかな線と、キャンバスの白地を生かした抜けのある油彩の画風が「かばくん」の持つ雰囲気にぴったり。ずっと眺めていても飽きることはありません。そばにいてぴったり離れない「かばの子」と、少年の連れている小さな「かめくん」との組み合わせも愛らしくてユーモラス。
そして、この絵本のもう一つの大きな特徴が、実は、視点が動物園に住むかばくん側からになっているところ。起きたい時間にゆっくり起きて、何だかうるさいと思ったら今日は日曜日。子ども達がたくさん来ていると知れば、サービスは少しだけ多めにして。だけど、やっぱり沢山食べたら眠いよね…。絵本を読んでいる子どもたちも、知らないうちに、「のんびり ゆったり」かばくんの時間を過ごしているのです。言うまでもなく、これは岸田衿子さんの紡ぐ言葉の心地よさ。心が休まったような気持ちになるのは、こんな理由があるからでしょうね。
そして、絵本を読んだ後には、やっぱり今度は本物の「かばくん」に会いに行きましょう。本物の「かばくん」はもっとすごいはずですよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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