風来坊シリーズ第5弾。いつも気ままに、一人、旅をするお坊さんですが、このたびはわけあって、山のなかの小さな村にやってきました。
木彫りをする場所がほしいと、お寺をたずねたお坊さん。さっそく木をはこびこみ……。
みるみる彫りすすむ木の像の一方で、お坊さんの耳にきこえてくるのはあのときの馬のひづめの音。
それは、侍たちの早馬のまえに、よちよちと歩き出た女の子を助けようと、若い母親がはねられたときの、馬のひづめの音でした。
お坊さんの目の前で、なすすべもなく死んでいく女。侍たちは止まることもなく走り去り、お坊さんの胸には怒りと、「もういちどふるさとのさくらがみたかった」と言って死んでいった女へのかなしみがうずまいていました。
彫りあげたのは、すべての悪魔を降伏させる不動明王像。そしてもう一体、やさしい顔の仏像をもって丘にのぼったお坊さんは……。
「あしたは、どんな風がふく。おれは、天下の風来坊」といつもの決めぜりふ。
ちゃっかりしたところもあるけれど正義感の強い、そして木彫りの腕は天下一品のお坊さん、風来坊。本書ではいつになくお茶目な風来坊は描かれません。
そのかわり、こわいほど迫ってくるのは、土を蹴立てて走る侍の早馬、人びとの「ちくしょう、お里をかえせ――っ」というかなしみの叫び。子どもも釘づけで絵本に見入ります。
落語絵本シリーズ、『うえきばちです』『地球をほる』などで多くのファンをもつ絵本作家・川端誠さんの、知る人ぞ知る風来坊シリーズ。
骨太ながら、幼い子どもでさえじっと見入らせる構成力、絵の迫力、物語性。これぞ真の絵本の力と言えるのではないでしょうか。2014年には新作『おはなしばあさんと風来坊』も登場。どの作品から読んでも味わい深いシリーズです。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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