ある日突然、これまでできなかったことができるようになる――子どもの成長って、めざましくて、びっくりするほどまぶしく見えることがあります。
あさえが幼稚園から帰ると、妹のあやちゃんがぐったりしていました。お母さんが病院につれていくと、なんと盲腸だということがわかり、そのまま入院することになってしまうのです。
普段は、おねえちゃんのお気に入りの人形をとってしまったり、いたずらっこな妹ですが、いないとさみしい。今日はおうちががらんとして見えます。明日、お見舞いにいくことになったあさえは、あやちゃんは何を持っていったら喜ぶかなと一生懸命考えるのでした――。
病院から戻って、あわただしく妹の着替えなどを準備して出て行くお母さんの姿、お父さんが帰ってくるまで雷雨の中ひとりぼっちで待つ、寂しさと心細さ。あやちゃんは大丈夫だろうかという不安。お父さんとふたりっきりの夜ご飯……ささやかな日常のシーンの積み重ねから、にぎやかな声がたえないいつものおうちの温もりとは違う、落ち着かないざらざらした空気が感じられます。
そんな中、お姉ちゃんが妹を心配する優しい気持ちと、いじらしさがまっすぐ読者に伝わってきます。
次の日、あさえちゃんが妹のために病院に持って行ってあげたものとは……? それを知った瞬間、あさえちゃんをぎゅっと抱きしめてあげたくなります。にっこりはにかんだように笑うあさえちゃん、しっかりしたおねえちゃんの表情ですよね。
心の動きを丁寧にすくいとった物語と、やわらかく表情豊かな絵で、子どもがぐぐっと成長する瞬間が見事に描かれています。こういう瞬間を重ねて、子どもは大きくなっていくんだな、とじんわりと感動がしみこんできます。読んだら、きっと忘れられない大切な1冊になるはずです。
(光森優子 編集者・ライター)
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