三年三組。畠山則安。あだなは、十円やす。じまんは毎日、日記をつけていること。けれどもある日、大事な日記をお母さんが勝手に読んでいるところを目撃してしまい、腹を立て、「あしたの日記」を書き始めます。そこに書いたのは、トイレに大蛇がいた! お母さんが鉛筆を天ぷらに! ……そして空からぶたが降る!? などの「うそ」の日記。
はたして、日記を書いた後に起きたこととは?
1980年に刊行され、40年近くにわたり読み継がれてきた『はれときどきぶた』。子どもの頃に読んだという大人の方もたくさんいらっしゃることでしょう。大人になって『はれときどきぶた』を思い出した時に頭をよぎったのは、本の中のエピソードの記憶。特に、鉛筆の天ぷらの記憶は五感とともに残っていて、食べたことはないのに口の中で鉛筆の味がしたり、ガリガリと固い感触がしたり、則安くんのお父さんと同じようにお腹が痛い気までしてくるようで、子どもの頃にお話を読んで感じた感覚がそのまま蘇ってくるようでした。そんな風に、『はれときどきぶた』という題名を聞いただけで、子どもの頃に読んだ記憶が蘇ってくるという大人の方も多いのではないでしょうか。
そしてこのお話のすごいところは、今は大人になったかつての子どもたちと全く変わることなく、今の子どもたちのことも夢中にさせてしまうこと。お母さんが勝手に自分の日記を読んでいる、というのは、いつの時代でも腹が立つことでしょうし、「あしたの日記」にへんなことを書いてお母さんをぎゃふんと言わせてやろうという則安くんの気持ちにも、自然に共感するうちにすっとお話に入りこんでしまうと思うのです。
日記を人に読まれたくない、という内容を考えると、親から少しずつ自立し始める小学2年生の後半から3年生ぐらいからが読み始める年齢としてはぴったりくるのではないかと思います。上は小学校高学年でも楽しく読めるでしょう。一方、お母さんをぎゃふんと言わせたいというあたりはひとりでこっそり読むのに向いているかと思いますので、読み聞かせには向かないかもしれません。
小学2年生の後半ぐらいから6年生までの子どもたちの中で、本ってなんだか難しそう、面倒くさい、など本にあまり興味が持てない子に特におすすめしたいと思います。読み始めたら、本ってこんなに面白くて親しみやすいものだったのか、主人公がこんなことしてしまってもいいの!? など本へのイメージががらっと変わることでしょう。本の面白さを知る出会いの一冊として、声を大にしておすすめしたい作品です。また、「はれぶた」シリーズはこの後10巻まで出ていますので、1巻目が気に入ったら、ぜひ続けて読んでみて下さいね。
大人の方が読む場合には、あとがきに書かれている作者のメッセージにもぜひ注目を。
たとえ人から「ばかなこと」だと思われるようなことでもいろいろなことを自分の頭で考えることの大切さや、自分の感じたこと、考えたことをちゃんといえるようにならなくちゃいけないというメッセージに、面白おかしいだけではない、『はれときどきぶた』が長く読み継がれる秘密が伝わってきます。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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