トムがじっと見つめているのは、美術館にあるトラの絵。家に帰ると、トムは紙と色えんぴつをとりだし、大きな大きなトラの絵を描きました。緑の宝石のような目、とがった歯、とても立派なトラです。
その夜。トムの部屋にはふいに暗闇が広がり、壁には緑の目。トラが向こうからやってきたのです! 息をのむトムに、トラはのどをならしながら言います。
「さんぽに いこう」
でも……。怖がるトムを背中に乗せて、ふたりは月の輝く夜の散歩に出かけるのでした。そこで待っていたのは、昼間見た絵のように、奥深く続いていく森。キツネやライオンやクマがいて、ウナギの泳ぐ大きな川があり、さらに夜の遊園地や洞穴も。
「ぼく、ちょっとこわいんだ」
小さな声でトムが言えば、トラは必ず答えます。
「こわくなんてない。しっかりつかまって」
そうやって少しずつ克服しながら、トムはトラとの時間を存分に楽しむのです。やがて疲れて眠くなってきたトムは……。
その美しく、たくましく、そして迫力のあるトラの姿を見ながら目が離せなくなってしまったのは、トムだけではありません。私たち読者だって同じです。それもそのはず、この絵本はフランスの画家アンリ・ルソーの実際にある絵から生まれてきたものなのです。絵が子どもの心を捉え、怯えながらもその世界に魅了されていく。そんな豊かで繊細な心の模様を、ファンタジックな手法で描き出します。月の光に照らされるトラの表情と言ったら……。
この絵本に出会えた子どもたちの心には、どんな景色が残っていくのでしょう。忘れられない1冊になりそうです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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トムはある日、美術館で、
ジャングルにいるトラの絵を見ました。
家に帰るとすぐ、トムは大きな大きなトラの絵を
描きました。
鋭い歯、長いしっぽ、緑色に光る目…。
その夜のことです。
壁のむこうから、トラがやってきました。
トラはいいました。
「さんぽにいこうよ」
「夜は、くらくてこわいよ」というトムを
背中にのせて、トラは夜のなかへと
歩きだしました。
森には、キツネやクマやライオンがいます。
「ぼく、ちょっとこわい」というトムに
トラは、「みんなであそぼう」とよびかけ、
かくれんぼをします。
さらに進んでいくと…?
こわがりなトムは、
トラといっしょに進むことで
すこしずつ、こわさを克服していきます。
子どもの心をファンタジックな手法と
美しい絵で描いた
とびきりすてきな夜の絵本。
アンリ・ルソーの絵から生まれた
心に残る絵本です。
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