夕暮れの迫る広い公園で、ベビーカーの中からあかちゃんが、空を見ています。
「きょうは そらに まるいつき」
バレエの練習がおわって、バスで帰る女の子が、窓の外の空を見上げています。
「きょうは そらに まるいつき」
遠い山のくまの親子。
新しい運動靴を買って、バスで帰る男の子。
店じまいのカーテンを閉める母娘。
どのひとたちの上にも、空にはまるい月があって……。
月からは、しずかな光がふりそそいでいます。
「きょうは そらに まるいつき」
このくりかえしの合間に描かれる風景は、べつべつのようでいて、つながっています。
近くと、遠く。時間と空間をつないで、月はかがやいています。
まるい月は、あかちゃんから、おじいさんやおばあさんまで……
森のどうぶつや海のくじらまで……
みんなのもの。
荒井良二さんはそれをそのまま言葉にはしませんが、たったひとことで、この幸せを表現します。
そのひとことは……?
最後まで読み終えて、涙がにじむのはなぜでしょうか。
『あさになったのでまどをあけますよ』と対をなすような美しい絵本。
窓のむこうの風景や、空の月が描かれていながら、これらの本は窓のこちら側にある日々のくらしを愛しみます。
窓をあける。
空の月を見上げる。
そのなにげない時間の中に、明日へのたしかな希望や、今日を生きるしずかなよろこびがひたひたと浸されています。
どんな幼い子も、体のどこかで感じ取って知っている、「おつきさまだ」と思って夜空を見上げる瞬間。
その美しい瞬間を、とじこめたくなる絵本です。
夕闇の公園に広がっていく、お祭りのテントの灯りが幻想的です。
ぜひ最後まで、荒井良二さんが描く夜空の月をごらんください。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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