誕生日の朝。ダヤンのもとに、アルス(地球)生まれの風の精・シルフが仲良しのバニラと共にやってきました。
お誕生日のお祝いにアルスの森に招待してくれると言うのです。
気がつけばそこは見た事のない場所。森のヒト、オランウータンやテングザルが手をふっています。
「やあ、ちびちゃんたち。ボルネオの熱帯雨林へようこそ」
おしりの下にいたイリエワニが話しかけてきます。
ウークウーク、ホウィウィ、コカカカ…
ボルネオの森はにぎやかな音であふれています。
ぐるっと曲がりくねった大きな木の圧倒的な存在感、たたきつけるような雨の音でいっぱいになる森、木のてっぺんにすみついている木や草、そして動物たち。たくさんの生命が息づいている豊かな森が、ダヤンとバニラを迎えてくれます。
次にシルフの力でミツバチに変身したダヤンとバニラが空の上から見つけたのは…もう一つの森。
そこは今見てきた熱帯雨林とはかなり様子が違うようなのです。いきものの気配もあまりなく、音もしません。
ぽつんと一本立っている真っ白な木の上にオランウータンの子がいます。一体どうしたのでしょう?
絵本を読んでいると目に浮かんでくるのは、作者の池田あきこさんが森の中で夢中になってスケッチしている姿。森の故郷ともいえる原生林に触れるために池田さんが旅立った先がここボルネオの森だったのです。そこには、自然の中で生きるオランウータンがいて、神秘的な音があり、美しい景色とあらゆる生命が共生していて…。わちふぃーるどにあるフォーンの森にも負けないくらい魅力的な場所。
でも、池田さんが初めてボルネオを訪れた時に見たのは原生林ではなく、どこまでも果てしなく続くパームヤシのプランテーションだったのです。こんなに素敵な森が、現実にものすごい速度でなくなっていっているという事実を知ったのです。
プランテーションも大事、でも森に暮らしている動物も大事。
絵本の力で何とかできるものなのでしょうか。
この絵本は森の素晴らしさを伝えてくれ、その森が危機にさらされていることを伝えてくれています。それはどこに住んでいる子どもたちにとっても他人事ではない現実のはずです。
更にもうひとつ。この絵本を買うことで、森と森をつないでいくためのボルネオ保全トラストの活動に参加することができます。売り上げの一部を使ってボルネオの森の一部を買い取り、手をつけず、自然のままの状態を守るのです。
「森を守る」ってどういうことなのか。
ダヤンの目を通して優しく教えてくれている絵本なのかもしれませんね。
目を覚ました時、またそこに帰ることのできる森がありますように。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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