むかし、大きな国がありました。その国の大統領は「せかいじゅうの 人びとを しあわせにするため」に、いろいろな国へ戦争をしにいきました。自分たちと同じように暮らせるのだからと、次々に征服をしていったのです。
とうとう、征服されていない国はたった一つになりました。とても小さなその国だけれど、残しておくのも気持ちがわるいものです。ところがおかしなことが起こります。その国には兵隊がいないどころか、なんだか歓迎をしてくれているようにすら感じるのです。彼らはお互いにおしゃべりをし、歌をならい、台所に立ち、やがて仕事を手伝うように……! 戦いにもならないこの征服を終え、大統領は満足した表情で言います。
「せかいをすくう せいぎのみかた! 大きな国は つよい国!」
だけど本当にそうでしょうか? 彼が自分の息子に歌ってあげたその歌は……。
勇ましくも、どこか明るくユーモラスに描かれたこの物語。この絵本には、どちらが悪いとも、戦争が良くないことだとも書いてはいません。けれど、その奥には強い者のゆがんだ論理への皮肉がたっぷり込められているようにも感じます。
「どこかおかしい。何かがちがう」
くり返し読みながら、少しずつ生まれてくる様々な気持ち。その声に耳を傾けながら、大人も子どもも考え続けるきっかけとなってくれる絵本なのではないでしょうか。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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