ぎぎぎぎ、ぎぎぃ──
だれもが寝静まった夜。
不気味なきしみをあげて開いたのは、冷蔵庫の扉。
中から姿を現したのは、きゅうりにゴボウ、トマトにジャガイモ!
でも、みんななんだか元気がありません。
きゅうりはよれよれ、トマトはよぼよぼ、ジャガイモなんて、あちこちから芽が出ています。
彼らはみな、冷蔵庫の奥で忘れられてしまったかわいそうな野菜たちだったのです。
冷蔵庫を出ていくと決心した彼らは、めぐまれない野菜たちの集会へとおもむきます。
月明かりの下、口々に人間へのうらみを語り、ついには復讐を心に誓う野菜たち……。
「どろどろにへばりついて、こまらせてやるわ!」
「やぶれかぶれだ。毒の芽を出せ!えいえいおー!」
しかしそのとき、野菜たちの前にミミズの和尚さまがあらわれて──。
「野菜たちよ、そうくさるでないぞ」
「くさるなっていったって、もう遅いやい!」
はたして、ミミズ和尚は野菜たちをなだめることができるのでしょうか?
不穏なタイトルと不気味な雰囲気に、「おや、怖い話のようだぞ」とこわごわ読みはじめ……、
しかし待っていたのは、悲劇的ながらかわいらしく描かれた野菜たちと、声に出して読みたくなる軽快なセリフ回し!
そのユーモラスなテイストとホラー映画のような演出とのギャップに、思わずくすくすさせられます。
そしてミミズ和尚の登場により、物語は昔話のようにしっとりとした雰囲気に変わって──
最後には、さわやかに広がる山あいの風景と、野菜たちの美しくみずみずしい色合いが、読者の目を楽しませてくれます。
くるくると予想外にうつり変わる展開で、最初から最後までワクワクできる作品。
エンターテイメントとして楽しめるのはもちろん、食べ物を粗末にしないことや、命を育む自然の営みについてのメッセージが物語の中心にすえられていて、訓話としても心にひびく、長く読み継いでいきたいおすすめの一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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